ユルリ島ソネット②幻の島を想う人。
ユルリ島には、かつて昆布の干場を求めて漁師が住んでいました。
その漁師たちも、対岸の根室側に干場を作り、動力が馬から機械に変わるとユルリ島から引き揚げてきました。
元ユルリ島の島民の想いを綴った「ソネット」がユルリ島ポスターシリーズの『幻の島を想う人』に凝縮されています。
そのソネットを紹介させて頂きます。
ユルリ島ソネット―2
幻の島を想う人。
その年配の漁師の自宅には、東向きに窓が作られていた。
奇妙なほど、横に細長い窓。椅子に腰を下ろすと、
ちょうどその窓を通して、港の先に浮かぶ島の全景が見えた。
まるで、海に載せたテーブルのような平たい島、ユルリ島だ。
9軒ぐらいは家があったんじゃなかったかな………。
16歳の夏までを過ごしたという島について、
漁師はそんな風に記憶をたどる。
あの頃の暮らしはよかったな、すべておおらかだった、と。
何もない島で暮らしていくために、家々では馬が飼われた。
「人が間違ったことをしさえしなければ、
馬はいつだって優しくて従順で、頼りになったんだ。」
島を出てから半世紀が過ぎたいまも、その漁師は毎日、
無人島となった思い出の地を眺めながら暮らしている。
「ほら、馬が見える。」彼が指さす先には、近くて遠い島の影があった。